ときどき旅に出るカフェ/近藤史恵

世界各国のスイーツやドリンクを味わえる
カフェ・ルーズが舞台の『ときどき旅に出るカフェ』。
日本人の口に合うもの、
けれど出来る限り異国の味を伝えられるように、
というコンセプトで店主の円(まどか)が作るスイーツは
食欲だけではなく好奇心が刺激される。
その国風に姿を変えたお料理は
ひとつの文化であり素晴らしいものだと思う。
でもカフェ・ルーズのような店があれば、
円の元同僚の瑛子のように、
足繁く通って未知の味にチャレンジしたくなるだろう。
アルムドゥドラー飲みたい。
お話自体は、食べ物がからむ軽いコージーミステリー。
円が日常のちょっとした謎を解き明かしてくれる。
軽く楽しむつもりだったが、
途中から予想よりぐっと引き込まれたのは
終盤に向かって分かってくる円自身の謎に引き込まれるから。
最後の2話くらい、ああそうだったのか、とポンと腑に落ちる。
食べ物も、それ以外のものも、
未知のものを体験してみては、
受け入れたり受け入れなかったりしつつ、理解していき、
自分にとって心地いいものを増やしていく、そんな楽しさを味わえる。
そして同時に、未知のものを知ろうともせずに拒否することは
なんてかっこ悪いことなんだ、とも感じる。
知ったかぶり、井の中の蛙、そんな人物が登場する。
こんな風にはなりたくない、としみじみ思う。
自分自身インドア派で、
旅に出るより家でのんびり、を選ぶほうなんだけど、
時には自分が住む世界から遠くに目を向けるのは
大切なことなんじゃないかと思った。
井の中の蛙にならないように、
表面的な知識だけで物事を分かったと思い込んでしまわないように。
だってそれは、傍から見るとすごーーくみっともないことなんだもの。
軽い読み心地でするする読めるけれど、
思い返すと印象深い小説でした。
『ときどき旅に出るカフェ』 平凡な毎日を過ごす瑛子が 近所で見つけたのは 日当たりが良い一軒家のカフェ。 店主はかつての同僚・円だった。 メニューは苺のスープなど、 初めて見るものばかり。 瑛子に降りかかる日常の小さな事件は 世界のスイーツによって 少しずつほぐれていく。 参考:「BOOK」データベース |
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ダブル/永井するみ

予想もつかない意外な展開、というわけでは無いけれど、
ミステリーを読む醍醐味、
これからどうなるんだ??というスリルを味わいながら読めました。
2人の心理的駆け引きと物語の展開が話の軸となっていて、
登場人物それぞれの想いはわりとあっさり描かれている。
さらりと読めるけれど、
登場人物たちの心に思いを馳せると
じんわり来たりざわっとしたりする。
お互いに疑いながら惹かれ合う乃々香と多恵。
ごくふつうの、親近感を感じる女性の多恵と、
身勝手で怖ろしいけれど
それが子供のような天真爛漫さにも通じる乃々香。
思い返すと、多恵より乃々香の印象のほうが強い。
乃々香は子供のようで、身勝手すぎるけれど
他人のために純粋に怒る素直さもあって、
あの人、決して"いい人"じゃない…でもなんか嫌いになりきれない、
そんな妙な魅力を感じてしまう。
乃々香の身勝手さにはざわっとするけれど、
多恵が「その気持ちは、多恵にもある」と感じたように、
読んでいる自分自身にも、確かにその気持ちがあって。
乃々香の行動理由は‟まったく理解できないもの”では無い、
ということに余計にざわざわっとする。
乃々香と母親の関係も、
自分自身、一人娘なのでちょっと分かる気もしたりする。
乃々香親子のようではないけれど、
確かに母とは独特の結びつきがあって、
それもまた乃々香親子が近しいものに思えてしまう由縁。
けれど、最終章で描かれていた、人々の思い。
誰かにとっては嫌いな、不快な人も、
ほかの誰かにとっては大切な人だったりするのだ。
色々な人が色々な思いで生きているのだ、
ということを思い出し、
やっぱり乃々香親子はちがう、と
多恵と同じくしっかり確信できる。
すべてを描き切っていないラスト、
この人たちはこれからどうなるのか、と
少しうすら寒い気持ちになるけれど、
やはり人は人として正しい方向へ進むのだ、と思える。
人間に対するかすかな希望を感じられるラストだった。
『ダブル』 同じ地域で起こった 3つの未解決事件には、 ある人物の姿が見え隠れしていた。 謎を追う女性ライターは 次第にその人物に魅入られていく。 彼女が辿り着いた真相とは。 参考:「BOOK」データベース |
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白銀の墟 玄の月/小野不由美

十二国記はどの話も、胸にぐっと迫ってくる。
その中でも、最も待ち望んでいた戴国(たいこく)の話の続き。
最初はもったいなくて少しずつ読んでいたけれど、
ラストに向かうにつれ、どうなるんだー!と一気読み。
読む前から、きっとそうなるなーと思っていた通り。
『白銀の墟 玄の月』(しろがねのおか くろのつき)は、
予想していた通り重たくて、辛くて、
それでも希望がある物語だった。
十二国記の最初の物語『月の影 影の海』も、上巻はとにかく辛くて、
それを乗り越えたうえの下巻で、どんっ!と心を打たれた。
その感覚に少し近いような印象。
戴麒(たいき)の戦いに、胸を揺さぶられる。
十二国記世界の人物であると同時に、日本の高校生でもある戴麒。
時おり描かれる、日本の高校生であった頃の描写。
それがあると、ますます近さを感じ、
その途方もない戦いに、それに挑む強さに感動する。
幼かった戴麒が、2つの世界での苦しみを越え、
この強さを身につけたのだと思うとぐっとくる。
主要登場人物に関しては、謎が残るところが多々ある。
阿選(あせん)はなぜあんなことをしたのだろう…と思うけれど、
どうやらそれは阿選自身にもはっきり分からないことらしい。
『白銀の墟 玄の月』を読む前は、
どうしてあんなことを?
そしてそれを成し遂げたのに、なぜそんな行動を?
と疑問ばかりがあった。
それに対する明確な答えは、無い。
「無い」ということが答えなのか、と、
読み進むうちに納得してしまった。
人は何かをする時、
強い気持ちもあれば、成り行きでそうなってしまった…という部分、
なんとなくそうしてしまった、といった
相反する感情が入り混じっているものではないか。
「動機は恨みです」「嫉妬です」なんて、
一言で言い表せてしまうほうがむしろ不自然なのではないか、と思う。
だから、阿選の苦しみも、少し分かってしまう気がする。
様々な感情が入り混じって、自分でもはっきり説明することができない、
そこが生々しく、人間臭さを感じる。
敵ではあるけれど、自分とまったく違うもの、とは思えないのだ。
読み終わった今は阿選ではなく、「どうして?」と
その行動の理由を知りたく思う人物がいる。
きっとその人も阿選と同様に、
様々なものが重なったうえでの行動なのだろうけれど、
まだまだ謎だから。
私はその人を、『白銀の墟 玄の月』以前の描写で
「ものの道理が分かっている」人物だと思っていた。
十二国記で王、そして人間の大切な資質として描かれているもの。
だから、その人がしたであろうことに衝撃を受けたし、哀しみを感じた。
裏切りとしか思えないその行為、それをした理由に納得したい、
納得できないならできないで哀しみと怒りをしっかり感じたい。
だけど、その心がまだ分からない、
阿選に感じた人間らしさをまだ感じられないから、
もう少しその人の話を知りたく思う。
そして、再会できた人々のその後の様子もやはり知りたい。
今年、短編集が出るという話だけど、
そのあたりが描かれているのか、楽しみに待ちたいと思う。
そんな風に、主要な登場人物たちはもちろん気になるのだけれど、
『白銀の墟 玄の月』で描かれているのは
そういった人々ばかりではない。
色々な立場の、多くの人々。
戦争や事故で犠牲が✕人、なんてあっさりと言われたりするけれど、
その人々皆ひとりひとり、
想いや苦しみや利己的な部分や夢がある、生身の人間であって。
たくさんの犠牲があって、
どうしてこんな…と思うようなひどいことがあって、
ここまで描かなくても、と思うような残酷な描写もある。
けれどそれも、読み終わってみたら
ひとつひとつ必要な描写で、
その積み重ねによって紡がれてきた
”歴史”というものを描いている、と思えてくる。
多大な犠牲があって、それは本当にひどいことで、
許されることも哀しみが消えることも無いのだけれど、
なおそのうえで力強く希望を持って生きようとする
人間の強さを感じられる。
絶望的な状況で、それでも最後まで足掻く人々。
これまでの十二国記と同じく、やっぱり胸に迫ってくる。
ラストは今までの十二国記シリーズと同じく、
歴史書の記述としてさらりと「史実」が書かれている。
こんなに大変なことがこれほどあっさりと書かれていることに驚くけれど、
逆に言えばあっさりした「史実」の裏では、多くの真剣な生があるのだ。
とにかく辛いし重たいし、
ラストは決してすっきりしたものではない。
けれど、読み始める前の期待通りに、
人間の歴史、弱さと強さ両方を持つ人々の真実、
そして絶望的な状況の中に含まれた希望を感じられる、
私にとってはやはり大きくて大切な物語だった。
| 『白銀の墟 玄の月』 あなたこそ、わたしが玉座に据えた王。 だが-。 18年ぶりの書下ろし新作、ついに。 戴国の怒濤を描く大巨編、開幕。 参考:「amazon」作品紹介 |
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・からまる ・眠りの庭 /千早茜

千早茜さん、『魚神』以来、久しぶり。
2冊続けて読みました。
『からまる』
あれ、千早茜さんてこんなんだっけ?というのが最初の印象。
『魚神』は最初から最後まで妖しく美しい世界のイメージだった。
『からまる』は、登場人物たちの夢の情景などの
美しくも不穏なイメージから入って行って、
あ、こんな感じだったな、と読み進んでいくうちに、
その妖しい世界はあくまで登場人物たちの
生活のほんの一部であることが分かってくる。
描かれているのは、
わりとしっかり普通に生きる普通の人の日常の情景。
連作短編で、主人公たちはほかの主人公とどこかで関わっている。
人と深い関りを持つことを避けて生きている登場人物たちは、
孤独だけれどどこか明るさがあり、
決して絶望しているわけではないように感じられた。
ふと揺らぐような妖しさはずっとあるけれど、
希望に向かっているようなラストで、
予想外だったけれどこれはこれで心地よかった。
『眠りの庭』
あ、やっぱりこういう感じ、と思った。
最初の千早茜さんのイメージ。
どこか美しく、でも不穏で、
希望があるような無いような、
あって欲しいようなあり得ないような。
二部で成り立つ連作。
一部と二部の間に起こったことは想像するしかなくて、
ぞわぞわしながらあれこれと考えてしまう。
決して健全ではない、けれどちょっと嵌ってしまう、
後ろめたいようなだからこそ楽しいような感覚がある。
登場人物たちで、自分と近いと思える人はいないのだけれど、
彼らの哀しみ、なんとか生き抜こうとする苦しさは感じる。
幸せ、とまではいかなくても、
彼らに穏やかな日々があればいい、と願いつつ、
それは無理なような予感もあって、
彼ら自身それを望んでいるのかも分からないような不気味さもあって。
ラストシーンの後、彼らはいったいどうなったのだろう…と
ふと思うことがこれからもある気がします。
微妙にちがう味わいの2冊、
どちらもあやうい美しさがあって、
『魚神』のイメージはやっぱりありました。
ほかの小説はどんな感じになっているのだろう、
『からまる』のような明るさがもっと出てくるのか、それとも?
気になるところ。
『からまる』 生きる目的を見出せない公務員の男、 自堕落な生活に悩む女子大生、 クラスで孤立する少年…。 ”いま”を生きる7人の男女を描いた、 7つの連作集。 参考:「AMAZON」内容紹介 |
『眠りの庭』 女子校の臨時教員・萩原は、 美術準備室にあった少女の絵に惹かれる。 それは彼の恩師の娘・小波がモデルだった。 やがて萩原は、小波と父親の秘密を知ってしまう。 (「アカイツタ」) 同棲する澪の言動に不安を抱いた耀。 彼女を尾行すると、そこには意外な人物がいた。 (「イヌガン」) 過去を背負った女と、囚われる男たち。 2つの物語が繋がるとき、 隠された真実が浮かび上がる。 参考:「BOOK」データベース |
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きりこについて/西加奈子

きりこは、ぶすである。
なかなか衝撃的な一文で始まる物語。
読み進むにつれ、きりこが、周囲の人が、
きりこの愛猫ラムセス2世が、
たまらなく愛おしくなる。
自分で自分をぶすだと思っていなかった、きりこ。
きりこが自ら気づくことができた物の見方こそ、
物事の真実、本質、だと思う。
「うちは、容れ物も、中身も込みで、うち、なんやな。」
「今まで、うちが経験してきたうちの人生すべてで、うち、なんやな!」
言葉にすれば単純なこと。
そんなこと分かってる、と思うようなこと。
けれど、それを実感として、
重みのある真実として受け入れることはなかなか難しい。
それを知ったきりこと、
初めからそれを知っていた猫たち。
猫は真実を、人間が忘れがちな大切なことを、
当たり前のこととして理解している。
きりこや周囲の人々は、
中身も容れ物も合わせて、
それまでの経験すべて合わせて、
「自分」として2本の足ですっくと立つことができている。
猫は最初から、
4本の足ですっくと立っている。
傷だらけでも、かっこよくなくても、
その姿は清々しくて憧れる。
それでいいのだ、
皆そうしてすっくと立つことが出来るのだ、
矛盾した何もかも合わせてそのまま受け入れていいのだ、
と、ラムセス2世は、猫たちは、
西加奈子さんは、教えてくれる。
最後に分かる、このちょっと不思議な文章の秘密。
温かくて、優しい。
大好き、ラムセス2世。
『きりこについて』は、
真実について語っている物語だ。
西加奈子さんの物語は、
いつだって弱さも汚さもすべて受け入れてくれて、
だからこそとびきり強くて優しい。
『きりこについて』 きりこが見つけた黒猫ラムセス2世は とても賢くて、人の言葉を覚えていった。 好きな男の子に「ぶす」と言われ 引きこもってしまったきりこ。 やがて、ラムセス2世に励まされ、 きりこは外に出る決心をする。 きりこが見つけた世の中で いちばん大切なこととは? 参考:「BOOK」データベース |
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嘘ばっか/佐野洋子

佐野洋子さん。
童話でもどことなく、話も挿絵もシュールで毒があって、
そこに子供の頃から妙に惹かれてた。
小学校の教科書に載っていた「おじさんのかさ」とか、
友だちの家にあって行く度に読んでいた「100万回生きたねこ」とか、
いい子になってね、って意味合いがまったく感じられない、
毒があるけど愛もある物語が印象的。
「嘘ばっか」はその最たるもの、
毒のある童話の集合体。
昔話を佐野洋子さん風にアレンジしたもの。
佐野洋子さん風、ではあるけれど、
昔話って案外、子供向きにしていないものを読むとかなり残酷だったりする。
その雰囲気のまま、
新しい、少し闇のある童話が生まれていて、
ちらちらと見える人間の暗闇が気になって仕方がない。
万人におすすめではないけれど、
佐野洋子さんの毒っ気にどこか惹かれる、
という人はきっとたくさんいるだろう。
『嘘ばっか』 (Visual Books) おとぎ話のパロディ集。 「おとぎ話は心の傷」という 佐野洋子さんが描いた 毒と闇と、そしてやっぱり愛もあるおとぎ話。 参考:「BOOK」データベース |
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