・からまる ・眠りの庭 千早茜

★3つ。

千早茜さん、『魚神』以来、久しぶり。
2冊続けて読みました。

『からまる』
 あれ、千早茜さんてこんなんだっけ?というのが最初の印象。

 『魚神』は最初から最後まで妖しく美しい世界のイメージだった。
 『からまる』は、登場人物たちの夢の情景などの
 美しくも不穏なイメージから入って行って、
 あ、こんな感じだったな、と読み進んでいくうちに、
 その妖しい世界はあくまで登場人物たちの
 生活のほんの一部であることが分かってくる。
 描かれているのは、
 わりとしっかり普通に生きる普通の人の日常の情景。

 連作短編で、主人公たちはほかの主人公とどこかで関わっている。
 人と深い関りを持つことを避けて生きている登場人物たちは、
 孤独だけれどどこか明るさがあり、
 決して絶望しているわけではないように感じられた。
 ふと揺らぐような妖しさはずっとあるけれど、
 希望に向かっているようなラストで、
 予想外だったけれどこれはこれで心地よかった。


『眠りの庭』
 あ、やっぱりこういう感じ、と思った。
 最初の千早茜さんのイメージ。

 どこか美しく、でも不穏で、
 希望があるような無いような、
 あって欲しいようなあり得ないような。

 二部で成り立つ連作。
 一部と二部の間に起こったことは想像するしかなくて、
 ぞわぞわしながらあれこれと考えてしまう。
 決して健全ではない、けれどちょっと嵌ってしまう、
 後ろめたいようなだからこそ楽しいような感覚がある。

 登場人物たちで、自分と近いと思える人はいないのだけれど、
 彼らの哀しみ、なんとか生き抜こうとする苦しさは感じる。
 幸せ、とまではいかなくても、
 彼らに穏やかな日々があればいい、と願いつつ、
 それは無理なような予感もあって、
 彼ら自身それを望んでいるのかも分からないような不気味さもあって。
 ラストシーンの後、彼らはいったいどうなったのだろう…と
 ふと思うことがこれからもある気がします。


微妙にちがう味わいの2冊、
どちらもあやうい美しさがあって、
『魚神』のイメージはやっぱりありました。
ほかの小説はどんな感じになっているのだろう、
『からまる』のような明るさがもっと出てくるのか、それとも?
気になるところ。




『からまる』
生きる目的を見出せない公務員の男、
自堕落な生活に悩む女子大生、
クラスで孤立する少年…。
”いま”を生きる7人の男女を描いた、
7つの連作集。

参考:「AMAZON」内容紹介





『眠りの庭』
女子校の臨時教員・萩原は、
美術準備室にあった少女の絵に惹かれる。
それは彼の恩師の娘・小波がモデルだった。
やがて萩原は、小波と父親の秘密を知ってしまう。
(「アカイツタ」)
同棲する澪の言動に不安を抱いた耀。
彼女を尾行すると、そこには意外な人物がいた。
(「イヌガン」)
過去を背負った女と、囚われる男たち。
2つの物語が繋がるとき、
隠された真実が浮かび上がる。

参考:「BOOK」データベース

 

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きりこについて西加奈子

★5つ。

 きりこは、ぶすである。

なかなか衝撃的な一文で始まる物語。
読み進むにつれ、きりこが、周囲の人が、
きりこの愛猫ラムセス2世が、
たまらなく愛おしくなる。

自分で自分をぶすだと思っていなかった、きりこ。
きりこが自ら気づくことができた物の見方こそ、
物事の真実、本質、だと思う。

「うちは、容れ物も、中身も込みで、うち、なんやな。」

「今まで、うちが経験してきたうちの人生すべてで、うち、なんやな!」

言葉にすれば単純なこと。
そんなこと分かってる、と思うようなこと。
けれど、それを実感として、
重みのある真実として受け入れることはなかなか難しい。

それを知ったきりこと、
初めからそれを知っていた猫たち。
猫は真実を、人間が忘れがちな大切なことを、
当たり前のこととして理解している。

きりこや周囲の人々は、
中身も容れ物も合わせて、
それまでの経験すべて合わせて、
「自分」として2本の足ですっくと立つことができている。

猫は最初から、
4本の足ですっくと立っている。

傷だらけでも、かっこよくなくても、
その姿は清々しくて憧れる。
それでいいのだ、
皆そうしてすっくと立つことが出来るのだ、
矛盾した何もかも合わせてそのまま受け入れていいのだ、
と、ラムセス2世は、猫たちは、
西加奈子さんは、教えてくれる。

最後に分かる、このちょっと不思議な文章の秘密。

温かくて、優しい。
大好き、ラムセス2世。

『きりこについて』は、
真実について語っている物語だ。

西加奈子さんの物語は、
いつだって弱さも汚さもすべて受け入れてくれて、
だからこそとびきり強くて優しい。




『きりこについて』
きりこが見つけた黒猫ラムセス2世は
とても賢くて、人の言葉を覚えていった。
好きな男の子に「ぶす」と言われ
引きこもってしまったきりこ。
やがて、ラムセス2世に励まされ、
きりこは外に出る決心をする。
きりこが見つけた世の中で
いちばん大切なこととは?

参考:「BOOK」データベース


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嘘ばっか佐野洋子

★4つ。

佐野洋子さん。
童話でもどことなく、話も挿絵もシュールで毒があって、
そこに子供の頃から妙に惹かれてた。

小学校の教科書に載っていた「おじさんのかさ」とか、
友だちの家にあって行く度に読んでいた「100万回生きたねこ」とか、

いい子になってね、って意味合いがまったく感じられない、
毒があるけど愛もある物語が印象的。

「嘘ばっか」はその最たるもの、
毒のある童話の集合体。
昔話を佐野洋子さん風にアレンジしたもの。

佐野洋子さん風、ではあるけれど、
昔話って案外、子供向きにしていないものを読むとかなり残酷だったりする。

その雰囲気のまま、
新しい、少し闇のある童話が生まれていて、
ちらちらと見える人間の暗闇が気になって仕方がない。

万人におすすめではないけれど、
佐野洋子さんの毒っ気にどこか惹かれる、
という人はきっとたくさんいるだろう。




『嘘ばっか』 (Visual Books)

おとぎ話のパロディ集。
「おとぎ話は心の傷」という
佐野洋子さんが描いた
毒と闇と、そしてやっぱり愛もあるおとぎ話。

参考:「BOOK」データベース




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蜜蜂と遠雷(みつばちとえんらい)恩田陸

★4つ。

クラシック音楽はまったく知らないし、
登場人物たちのように
情熱を傾ける何かがあるわけでも、音楽の才能があるわけでも無い。
そんな人にも、
ピアノコンクールを舞台にしたこのとびきり厚い小説を
面白く読ませる恩田陸さん、すごいな、と思う。

演者それぞれの演奏の違いが言葉で見事に表せている。

クラシックは知らなくても音楽を聴くことは好きなので、
彼らの演奏を聴いてみたくなった。
天才、と呼ばれる若者たちの心情には、
なるほどこういうことを考え、感じているのか…と感心する。

その中で最も共感し応援したくなったのは、
少し年長でふつうに仕事をし
家庭を持っている高島明石だ。

クラシック音楽の世界って馴染みが無い人間からすると
選ばれし者だけがその美しさを享受できる世界、
のように見えることが度々ある。

そのクラシックの世界を描いた中で
「生活者の音楽」という視点は新鮮だし、
その音楽に希望を持てるのは素敵だ。

そして若き3人の天才たち。
彼らには、クラシック界に正直言って感じることがある
周りを締め出す高慢さが見受けられない。

自分の才能にあまり気づいていない人もいれば、
しっかり理解し、受け止め、でも奢ることなく
音楽の道を進もうとしている人もいる。

ほかにも登場人物はいるけれど、
コンクールに出場した若き天才3人と高島明石が、
彼らが奏でる音楽が魅力的だ。

クラシックを聴いてみたい…とはあまり思わないけれど、
もっともっと音楽を楽しみたい、と
蜜蜂と遠雷を読んで感じた。
あくまで聴くほうではあるけれど。




『蜜蜂と遠雷』

私はまだ、音楽の神様に愛されているだろうか?

3年ごとに開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール。
完璧な技術と音楽性を持つ青年、
長らくピアノから離れていたかつての天才少女、
仕事と家庭を持つ
コンクール年齢制限ギリギリの青年、
逝去した偉大なピアニストが
「天からのギフト」と呼んだ、
クラシックを学んだことがなく
家にピアノすら無い少年。

ピアノコンクールを舞台に、人間の才能と運命、
そして音楽を描き切った著者渾身の小説。
直木賞と本屋大賞、史上初のW受賞。

参考:Amazon 内容紹介


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笹の舟で海をわたる角田光代

★4つ。

主人公の左織と、
不思議な縁からその義理の妹となった風美子。
2人は戦中に生まれて疎開を経験し、
その後の日本の移り変わりを体験してきた女性たち。

今の時代から見ると左織は考え方が古臭く、
周囲に流されてきた女性、という印象だ。
対して風美子は力強く、欲しいと思ったものを勝ち取っていく女性。
現在の女性からすると手本とすべきは風美子であり、
左織はひと昔前の女性…
という単純な図式だけで表せるものだろうか、となんとなく思う。

『笹の舟で海をわたる』。
ラストシーンで、左織の思い出の中、
風美子と思われる少女と幼い左織が
笹の舟を川に流す光景がよみがえる。

 「海までいくかな。遠いお国にいくかな。ささやくように言葉を交わした。
  あんなに頼りないんだもの、海までは無理だろうと幼い左織は思いながら、
  どこへもいけない自分を乗せたようなあの舟が、
  海をぐんぐん進むところを思い描いていた。」

人はみな結局、笹の舟で海を渡っているようなものではないか。
力強い風美子、
彼女は辛い体験をバネに
自分の手で舟を漕ごうと決意し、努力し、たくさんのものを手に入れてきた。

けれど、左織の2人の子供のうちどちらかをちょうだい、
なんて冗談めかして言うその裏に、
風美子の淋しさ、孤独を感じる。

人に少しでも軽んじられたように感じると
むきになってしまう風美子。
自分の乗っているものが笹の舟だと
風美子は十分すぎるほど知っていて、
だから外からの揺さぶりを受け流せないのではないか、という気がする。

帆を張り、櫂を持ち、それでも乗っているものは笹の舟。

一方で左織は、櫂を持とうなんて思ったことすらないように思える。
けれど、波に揺られて抗わず、
それでも決して舟から落ちない、
左織には左織の強さがあるのではないか。
だからこそ、最後に周囲に反対されても、
自分の終の棲家を決めることができたのではないか。

左織と風美子。
真逆の生き方をしているように見える2人。
左織の穏やかに生きたい気持ち、
でも風美子が近くにいて、
自分はどこか間違っているのかとふと不安になる気持ち、
分かる気がする。

けれど、どちらかが間違っているわけでも、
どちらがいい、わるい、というわけでもない。
ただ、そういう巡りあわせだというだけ。
波に抗わない強さ、
自分とはまったくちがう強さを持つ左織に
すがっていたのは風美子かもしれない。

 「この人にも私は必要なのだと左織は気づく。
  姉としてではない、あのちいさな女の子を忘れないために。
  おなかを空かせたままでいるために。」

左織と風美子だけではなく、他の登場人物も皆、
自分なりのやり方で海を渡ろうとしている。
きっとそれが人間というもので、
小説の中だけの話ではないのだろう。
  
時に櫂を持ち、時に波に身をまかせる。

左織と風美子を合わせたようなそんな生き方ができれば理想だろう。
そして、様々な人の
様々な生き方を理解できる人間になりたい。
様々な舟の漕ぎ方を尊重できる人でありたい。

難しいことだけれど、それが私の理想の笹の舟の漕ぎ方だ、と思った。




『笹の舟で海をわたる』

朝鮮特需に国内が沸く日々、
左織は風美子に出会った。
疎開先で出会っていたと話す彼女を、
しかし左織はまるで思い出せない。
その後、2人は不思議な縁から義理の姉妹となり、
風美子は人気料理研究家として
高度成長期の寵児となっていく。
平凡を望んだある主婦の半生に
戦後日本を映す長篇。

参考:「BOOK」データベース

 

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ジャンプ佐藤正午

★2つ。

失踪なんてちょっとした歯車の掛け違えで起こるのかもしれない。

「人生なんて簡単なことで変わってしまう」
というテーマには心を揺さぶられた。
…なんだけど、どうにも主人公が好きになれないんだよなあ。

山本文緒さんの解説
「この物語の主人公・三谷に感情移入できるかできないかで、
共感派と反発派に分かれたようだ。」
私はできなかったほう。

付き合いたての彼女、みはるが
一晩帰って来なかったのに出張に行き
帰ってからも出社して仕事をこなし、
みはるがいなくなった彼女の自宅を訪ねるのは一週間後。

…本当に心配してる?って引っかかりがずっと残る。
男が関係してるんじゃないかとか、うだうだと女々しいし。
愛情を持って安否を心配しているというより
いきなり女に姿を消されて男のプライドが傷つけられた、という印象。

おまけに、途中まで読者にすら秘密にしていた三谷のある習慣。
どうにも優柔不断で誠実さが無い男だなあ、
というのが三谷に対する率直な感想。
みはるがちょっと可哀そう…と思ったら
これまたずいぶんあっさりしてる。

結局お互い、好きになりかけ、という感じで、
そこまで大切な存在じゃなかったんじゃ?と思う。

三谷の優柔不断さ、不誠実さは信用が置けないし、
みはるはさっぱりした性格できらいじゃない印象だけど
彼女の気持ちもよく分からないし、感情移入するほどじゃない。
そしてもう一人、ある人物がどうにも好きじゃない。
その人の行動、きもちわるい…と思ってしまった。

三谷の優柔不断さは作中で三谷自身、
自分はそういうところがある、と認めているので
そこを「仕方ないなあ」と許せるかどうか、が
三谷を好きかどうか、

つまりはこの小説を好きかどうかの分かれ目なんだろうな。
私は三谷はじめ、登場人物たちを好きになれなかった。

ただやっぱり、人生がちょっとしたことで変わっていってしまう、
というテーマには惹かれる。

人生は偶然の積み重ね。
本当に自分が選び取ったのか。
もう1度、佐藤正午さんのちがう作品を読みたい、と思うのは
そのテーマが気になるから。

面白かったけどもう読まなくてもいいや、と思う作家さんもいれば、
すごく良かった訳じゃないのにどこか引っかかる、という人もいて、

佐藤正午さんは後者。
なぜかまた読んでみたい、
あと2冊くらい読んで印象を決めたい、という気分でいます。




『ジャンプ』

「リンゴを買って5分で戻ってくるわ」
そう言った彼女はそのまま姿を消した。
残された男は、
わずかな手がかりを元に行方を探し始めた。
人生なんてちょっとした歯車の掛け違えで
大きく変わってしまうのかもしれない。

参考:「BOOK」データベース

 

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ベーグル焼いたり、本読んだり。

初めまして、ようこそお越しくださいました。 「ベーグル屋 ここのわ」のちっさい方です。

るん

備忘録といいますか、
読後に自分の中に湧く気持ちを言葉にして、
ついでにブログにしてみました。

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