★5つ。

『巷説百物語』シリーズ3作目。
時は江戸から明治へと移る。
新時代の若者たちに不思議な話を語るのは、
一白翁(いっぱくおう)と名乗る老人-
若かりし頃、御行(おんぎょう)又市一味と
行動をともにした山岡百介。

年老いた百介、百介の話の中にだけ現われる又市たち。
「妖怪」が消えていく世の中、それを静かに受け入れる百介。
読んでいるほうも、時代が流れる寂寥感を
受け入れなければなりません。
文明開化の騒ぎの中、日本人は大切なものを
置き忘れて進んでしまったのではないか…
という思いが湧いてきます。

百介は又市たちと離れた後、
あまり幸せではなかったように見えてしまいます。
夢を無くし、ただ生きて…。
だから、ラストは百介にとってきっと良かったのだ、と思えて
切ないけれど温かい。
登場しない又市が
どこかでずっと百介を見守っていてくれたように思えるし、
百介もきっとそう思ったのだろう、と。
前作『続巷説百物語』の
身を切られるような悲しいラストとはちがい、
古きよき時代が行ってしまった寂しさを感じる、
味わい深いラストでした。

6つある短編のうち、最後の2作「五位の光」「風の神」は
京極堂シリーズとの関わりが。
京極夏彦さんの小説はいつも凝っているなあ、という感想。
又市の仕掛けによって人に憑いた「妖怪」を
後の時代に京極堂が落とす…
巷説百物語シリーズと京極堂シリーズ、
両方読んでいるとそのつながりが不思議で、面白い。

巷説百物語シリーズ、残るは1作。
今のところ、この『後巷説百物語』が1番好きですが
又市の過去を描いた『前巷説百物語』も楽しみです。



『後巷説百物語(のちのこうせつひゃくものがたり)』
文明開化の音がする明治10年。
古き世に惹かれる笹村与次郎らは
一白翁と名乗る老爺を訪ねる。
若かりし頃、怪異譚を求め諸国を巡った
老人が語る、怪しく、悲しい昔話。
胸によみがえるは、鈴の音と、
忘れえぬあの声…御行奉為―
第130回直木賞受賞作品。

参考:「BOOK」データベース

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★5つ。

大評判の『1Q84』をまだ買ってすらいないのは、
買ってもどうせもったいなくってなかなか読めないからです。
その代わりと言ってはなんですが
久しぶりに読み返してみた『螢・納屋を焼く・その他の短編』。

どの短編も結末らしい結末はなく、
ある時間からある時間までに
起こったできごとや情景を
すとん、と切り抜いてそのまま書いている、という感じ。

結末のない不思議な短編を読むと
「この後はどうなったんだろう」
「この意味はなんだろう」
と気になることが多いのですが、
『螢・納屋を焼く・その他の短編』は
なぜかそれが無く、ただ余韻に浸るだけ。
この世界はこれで完結なのだ、という印象を受けるのです。
とは言っても『螢』は長編『ノルウェイの森』になるのだけれど、
淡い闇の中を螢がとびたつ、
そのシーンでこの『螢』という物語は完璧に完結している。
村上春樹さんの短編はいつもそんな印象で、
その分よけいに、
その世界から戻ってくることがなかなかできない。

「死は生の対極としてではなく、その一部として存在している。」
『螢』にあるその一節のように、
日常の中に不思議な世界が、
そっと存在しているような気がしてしまう。
部屋にかすかに漂う煙草の残り香のように。
間違いなく日常ではあるのだけれど
(その場所が奇妙な「象工場」であったとしても)
どこかがほんの少しずれている、
そんな空間に連れて行かれる感覚です。

村上春樹さんの小説はいつもそんな感覚で、
読み終わった後も何かと引きずってしまいます。
『1Q84』、楽しみだけどもったいない、
ハマってしまうのが分かっているから読むのが恐い…
いつ読むかまだ迷っています。



『螢・納屋を焼く・その他の短編』
彼女は時々僕の腕に体を寄せた。
でも、それだけだった。
彼女の求めているのは僕の腕ではなく、
誰かの腕だった。
僕の温もりではなく、誰かの温もりだった…。
もう戻っては来ないあの時の、
まなざし、語らい、想い、そして痛み。
リリックな7つの短編。

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★5つ。

卓上織り機で手織りをする人のための本。
縮絨の詳しい方法や、房を残さない時の端の処理、
本格的な手織り機を用いた本に説明は載っているけれど
卓上織り機ではどうなるの??
と思っていた組織図についてなど、
ここが知りたかった!ということが詳しく書かれていてうれしくなります。

卓上織り機でできる技法はすべて分かるのでは、
と思うほどたくさんの技法。
まだまだ卓上織り機でできることが
たっっくさんあるのが分かってワクワクします。

載っている手織り作品、さりげなくてとっても好み。
写真もきれいで、センスの良いインテリアか
雑貨の本のようで楽しい。
その分、最初のほうの写真以外は白黒だったのがちょっと残念。
スワッチ写真もカラーのほうが分かりやすかったと思うのですが。

作品数は多くは無く、
技法の数が多いためか説明も細かくはありません。
でも織り機の使い方はとっても詳しく載っているし、
手織り初心者から経験者まで
手元に置いて長~く参考にできる、という感想。

ちょっと手織りをやってみて、
オリジナルの作品を作りたい、
でもどの技法を使えばどんな布ができるのやら…
これ以上複雑な模様や作品は
本格的な手織り機でないとできないのかな…
と思っている人にピッタリの本。

著者の福井雅己さんは糸を販売する㈱アヴリルを設立した方。
使っている手織り機も糸もアヴリルのもの。
手織り機は私が使っている
「織美絵(オリヴィエ)」でも問題なく使えます。
アヴリルの糸はホント、素敵なものがいっぱい…。
取扱店に行くと目移りしていつも困るのです。

手織りに興味が無い方にはまったく関係ないけれど、
興味がある方には超がつくほどおすすめです。



『暮らすように織りを楽しむ
―手織りの技法と素材の本
(創作のヒント! レッスン 3 手織り編)』


小さな卓上織り機でもここまで織れる!
27の技法を創作のヒントになる
作品やスワッチで紹介し、
織り方から仕上げ方までぎっしり詰め込みました。
作品は全てアヴリルの糸を使って
暮らしに役立つ実用的な作品で紹介しています。

参考:AVRIL Web

★5つ。

2005年に公開されたジョニー・デップ主演映画
『チャーリーとチョコレート工場』の原作。

『チョコレート工場の秘密』の最大の魅力はやっぱり、
“世界一おいしいチョコレート工場”!
夢に溢れたチョコレートの作り方、
そしてそこで働く“あるもの”たち、
チョコレート好きにはたまらんっす。

奇想天外なチョコレート工場の秘密と
ドタバタ感が強いストーリーが単純に楽しめます。
ちょっとブラックな展開もあって
“子ども向き”と油断はしてられません。

そして人間描写が実は鋭い!
チョコレート工場のオーナー・ワンカ氏をはじめとした
強烈に個性的な人々。
大人も子供も、どこかにいそうな人の特徴を
思いきり強調して描かれているような感想。
いくらなんでもこんな人はいないだろー、と思いつつも
なんだかどこかで会った気がする…
もしかして自分にも似た部分があるかも?
と思ってしまう。
貧しくても素直で家族思いな少年、
チャーリーの健気さにはホロっときます。
周りの大人たちのチャーリーを思う暖かな気持ちにも。

やさしい英語なので、原作でもわりとスイっと読めます。
講談社英語文庫には巻末に注釈がついているから助かるし。

映画『チャーリーとチョコレート工場』とはラストがちがっています。
ほんわりする映画のラストもいいけれど、
続きを匂わす原作のラストも楽しくって好きです。

※以前に書いた『チョコレート工場の秘密』の感想を書き直しました。



『チョコレート工場の秘密』
チャーリーの家のすぐそばに、
世界一おいしいチョコレートの工場がある。
そのオーナーのワンカ氏が、
5人の子どもを招待することにした!
招待状が入ったチョコレートは
世界中にたったの5枚。
でも、貧しいチャーリーが
チョコレートを口にできるのは1年に1度、
誕生日に1枚だけ…。

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★5つ。

小夜のもとに届いた手紙は本物のもみじ。
人形しばいうさぎ座は、本物のうさぎによる人形しばい…。

大好きな安房直子さんの童話に、
これまた大好きな味戸ケイコさんの絵による絵本。
透明感がある味戸ケイコさんの繊細な絵は
安房直子さんの世界観に似合いすぎ。

たとえ挿絵がなくても安房直子さんのお話を読むと
味戸ケイコさんの絵が浮かんでしまう私にとって
『うさぎ座の夜』はどちらも思いきり楽しめる素敵な絵本です。

うさぎからもみじの手紙が届いても
それを特別に不思議なこととは感じていない
小夜や、小夜のおばあちゃん。
強く触れると壊れそうに繊細で、
それでいてしっかりと地に足を付けて生活をしている人々や、うさぎ。

『うさぎ座の夜』のように、さりげなく異世界に行ってみたい。

安房直子さんのお話に時々見られる
独特の淋しさ、怖さは少し薄れていて子供向きかも。
でも、人間の行動を反省させるうさぎの言葉があったりして
子供だましではない、という感想。
大人にも子供にも読んでもらいたい絵本です。



『うさぎ座の夜』
小夜は山ふかい小さな温泉宿の一人娘です。
友だちは山の鬼の子やてんぐ、
風や木とも話ができます。
小夜はやまんばの子なのでしょうか。
そんな小夜のもとに
人形しばいうさぎ座から手紙がきました。
まっ赤なもみじの葉の手紙でした。

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★5つ。

お正月に実家に帰って、
本棚にあった『風の歌を聴け』を久しぶりに再読。
初めて読んだ高校生の時と同じく、
一見軽快であるけれど透き通った寂しさがあふれる情景に
今でもやっぱりハマってしまった。

私にとって、村上春樹さんは“基本”。
色々な小説を読んでも、
なぜか惹かれて戻ってきてしまうところ。
感情を言葉にすることがほとんどないけれど
温かいもの・熱いものを持った登場人物たちに
特別な愛着を感じ続けているのです。

デビュー作である『風の歌を聴け』、
やはり村上春樹さんの原典だと思います。
淡々とした語り口、特に事件が起きるわけでもない夏の情景。
それでもやっぱり、
奥底に静かだけど熱い何かが流れているような。

村上春樹さんがエッセイで
「『風の歌を聴け』は忙しい中、細切れの時間で少しずつ書いた。
だから情景がぶつぶつと切れてしまい、それがクールだと評された」
と(原典を忘れてしまったから正確な引用ではないけれど)
語っていましたが、「僕」も「鼠」も真底クールだとは思えない。
“何か”を秘めた静かな語り口に惹かれているのかもしれません。

そして文章に散りばめられている、心に残る言葉たち。
「完璧な文章などといったものは存在しない。
完璧な絶望が存在しないようにね。」
「かつて誰もがクールに生きたいと考える時代があった。
-僕は心に思うことの半分しか口に出すまいと決心した。
-そしてある日、僕は自分が思っていることの
半分しか語ることのできない人間になっていることを発見した。」
それから、犬の漫才師と呼ばれたDJの心の底からの一言。

その後の村上春樹さんの、物語性がある小説とはちょっと違う。
するすると読めるけど心の奥に沁みてくる、
何度も読み返してしまう本です。



『風の歌を聴け』
1970年の夏、海辺の街に帰省した「僕」は、
友人の「鼠」とビールを飲み、
介抱した女の子と親しくなって、退屈な時を送る。
2人それぞれの愛の屈託を
さりげなく受けとめてやるうちに、
「僕」の夏はものうく、ほろ苦く過ぎさっていく。
青春の一片を乾いた軽快なタッチで捉えた
出色のデビュー作。

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★5つ。

“天然”という言葉すら超越した素直さで、
身の危険には“おともだちパンチ”で立ち向かう闘志を持ち、
“オモチロイこと”に無我夢中になる強い好奇心があって、
お酒を飲ませればまさしく底無し。
強烈なインパクトの持ち主なのに
自分が個性的だなんてちっとも思ってない、
「黒髪の乙女」がとってもかわいいっ。

そして「黒髪の乙女」に恋してしまった「先輩」は
男臭い妄想にどっぷり浸りながらも相当純情。
“ロマンチック・エンジン”が稼動してしまうともう止まらない。
古本市で彼女と同じ本に手を伸ばして、
なんてコテコテな妄想を真剣に考えている「先輩」、
ヘンな人だけどやっぱりなんだか可愛げがある。

『夜は短し歩けよ乙女』
「先輩」と「黒髪の乙女」が代わるがわる語る構成。
どちらも森見登美彦節、
格調高い言葉でばかばかしいことが大真面目に語られていて、
じわじわ笑えて癖になってしまう文章なのです。
日常からいきなりファンタジーに飛んでしまう不思議な世界、
唐突に感じて戸惑うところも。

それでもこの文章、この世界、この癖がなんとも好きです。
第1章から第4章、春夏秋冬と過ぎた1年。
それぞれの季節感が
ありありと感じられるのもいいところ。

1年を過ごした「先輩」と「黒髪の乙女」、
彼らの今後もちょっと気になるところです。



『夜は短し歩けよ乙女』
私はなるべく彼女の目にとまるよう心がけてきた。
「偶然の」出逢いは頻発した。
我ながらあからさまに怪しいのである。
「ま、たまたま通りかかったもんだから」
という台詞を喉から血が出るほど繰り返す私に、
彼女は天真爛漫な笑みをもって応え続けた。
「あ!先輩、奇遇ですねえ!」
キュートで奇抜な恋愛小説in京都。

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★5つ。

小学校の教科書で読んだ「きつねの窓」、
中学校の教科書で読んだ「鳥」。
印象に残っていた2つの話が
同じ作者だと気づいたのは高校生の頃でした。
この本にはその2つを含めた、12の話が載っています。

「きつねの窓」ではききょうの青、
「ある雪の夜の話」では真っ白な雪野原の上の真っ赤な林檎…
美しい色が印象的なものが多いです。
けれどどんなに鮮やかでも、どこか透明感がある。
それは、私たちがいる場所とは違う世界の色だからかも。

安房さんのお話はどれも、異世界にそっと連れて行ってくれます。
違う世界と、人間との交わり。
それは時にほんの一瞬で2度と出逢えず、
時に帰れなくなってしまい、
切なかったり淋しかったり、少し怖い時も。
それでも、すべてを優しさが包んでいるから、どこか心が暖まる。

味戸ケイコさんの絵は美しいけど切なくて淋しくて、
安房さんのお話にぴったりで大好き。
この本では挿絵はあまりないけれど、絵と話が一体となって
とても印象深いものになっています。 



『南の島の魔法の話』
あたしの耳にはいってしまった、
たいへんなものをとってください…。

耳のお医者さんのところに駆け込んで来た少女。
お医者さんが見た、たいへんなものとは…。(「鳥」)
不思議な世界にそっと連れて行ってくれる、
幻想的な短編集。

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