★3つ。

宮部みゆきさんの時代物。
江戸の世に起こるふしぎ噺が9編。
怖ろしいことが起こるけれど、ほんのり暖かい話もあり
色々な読後感を楽しめます。

女性の嫉妬や思い込みの怖ろしさが
ポイントとなる話が多かったように思います。
人情も同時に描かれた話も多くて
やわらかい印象があるけれど、
何だかねとっとした、張り付いてくるような
怖ろしさがあるな…という感想です。

現代よりも“あやしのもの”が身近なものであった江戸の世。
『あやし』に登場する人々にとって
遭遇する怪異は確かに怖ろしいことなのだけれど、
案外身近なものであるような印象です。
読んでいるとこちらまで、あやしのものが身近に現われても
不思議じゃないように思えてしまう。

何より怖ろしいのは、
“あやしのもの”とは化け物ではなく、人の心である、ということ。
ちょっとした出来心や不注意で
人の嫉妬や恨みを買ってしまうこともある。
なぜこんな目に合わなくてはならないのか、
訳も分からぬまま怖ろしい目に合ってしまった人々の姿に
自分にも同じようなことが起こりうるかも…
と思えてしまって少し背筋がぞっとする。
自分が恨みを買うこともあれば、恨むほうに回ってしまうかも。
誰かの心の狂気に触れてしまった怖さは
暖かさもある分どこか身近なものに思えて、うすら寒さが残ります。

京極夏彦さんの小説にあるような
狂気に走ってしまった人間の痛いほどの哀しみは無いけれど、
ちょっとぞくっと来て、ちょっと切なくなる。
ほっとしたり、また怖くなったり、
様々な形であやしの世界を味わいました。



『あやし』
その話が、どういうふうに終わるのか、
おまえは、ちゃんと聞いたのか?
-どうしたんだよ。震えてるじゃねえか。
悪い夢でも見たのかい…。
月夜の晩の恐い恐い、江戸ふしぎ噺・9編。

参考:出版社/著者からの内容紹介

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★4つ。

気づけば今年も大晦日となりました。
ご訪問やコメントを下さった方々、誠にありがとうございました。

さて今年最後の更新は、
久しぶりに読んだ宮部みゆきさんの現代ミステリー。
「誰か」の続編であることを知らずに読んでしまったけど、
独立した話になっているので問題は無し。

「火車」「模倣犯」などの圧倒的な迫力を予想していたら、
意外にもあっさり読めてしまいました。
主人公・杉村三郎が事件に“巻き込まれた”形で、
大変な目には合うけれど
事件とは他人、という印象があるからでしょうか。
少し物足りなさも感じたけど、
宮部みゆきさんはわざとそういう人物を主人公にして
事件を少し離れた視点から見る物語を書きたかったのかなあ、
という気もします。

迫力はちょっと不足だけど、
人の心に潜む“毒”の怖ろしさがじわじわ感じられます。
辛い環境を改善できない自身の無力さ、
“自分だけが辛い”という思いは
心の中に積もり、腐って、身を蝕む毒となってしまう。

毒に冒され、過ちを犯してしまった人は悲しい。
だけど過ちに気づいた人はまだよくて、
自分が毒に蝕まれていることに気づいてすらいない人は
反省もできず、どこへも行けない。
自分の中の毒からは目を背けてしまいがちだけど、
時にしっかり見つめないと
毒が全身に回ってしまいかねない、という
うすら寒いような恐怖。

事件は一応解決し、読後感は爽やかではあるけれど
切なさ、もの悲しさが付きまといます。
「火車」などの迫力のほうが好みだけど
毒の怖さが生々しくて、
「名もなき毒」はさらっと読めるけど
実は怖い話かもしれません。

さて、来年も読書感想を綴って参りたい所存です。
よろしければ来年も何とぞよろしくお願い申し上げます。
どうぞよいお年をお迎え下さいませ。


『名もなき毒』
どこにいたって、怖いものや汚いものには遭遇する。
それが生きることだ。

財閥企業で社内報を編集する杉村三郎が
ある理由で訪れた私立探偵・
北見のもとで出会ったのは、
連続無差別毒殺事件で
祖父を亡くしたという女子高生だった。

参考: 「BOOK」データベース

 

★4つ。

ある事件の犯人や動機を、様々な角度から推理していく・・・
っていうとごく普通だけど、
語り手が人ではなくお財布!なのです。
関係者のお財布が
それぞれの持ち主から見たことを次々に語っていく。

一人称の感情の吐露とも
三人称の淡々とした描写とも違い、
動けずとも持ち主への愛情あふれたお財布の視点が新鮮です。

その視点抜きでも、
犯行の動機や関係者の気持ちといった
人間の心理がこまやかに描かれていて説得力あり。

よく考えたらお財布ってほとんど肌身離さず持っているから、
持ち主の秘密は全て知っているんだよね・・・。

すべてのお財布が語りだしたら、
世の中きっとタイヘンなことに。

長い長い殺人 (光文社文庫)長い長い殺人 (光文社文庫)
宮部 みゆき

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