★4つ。

『巷説百物語』シリーズ、ラスト。
時は1番古く、描かれるのは若かりし頃の又市。
すごろく売りの小悪党・又市が、御行(おんぎょう)姿となって
裏の渡世を生きるようになるまでが語られています。

いつも冷静に仕掛けをほどこしていた又市の
若く、青臭い姿が新鮮。

「-辛かろうが悲しかろうが、
人は生きててこそじゃねェのかい」

人が死なずにすむように、
生きやすくなるように行う仕掛け。
熱い心と人情を持っているからこそ、
人の残忍な部分を見続ける人生を
送ることになってしまった又市。
後の彼は感情を現すことはほとんど無いけれど、
辛くて痛い人生だったのではないかと思います。
自分のようにならないよう、
百介の前から姿を消したのだろうなあ…
と、後に又市が取った行動についてまでも考えてしまいます。

特に最後の話「旧鼠」は惨くて
読んでいて胸が痛くなるけれど、
この事件があったからこそ
又市が裏の渡世に身を投じる決心をしたのだ、
ということがよく分かります。
人の優しさと残酷さが描かれていて、又市をはじめ
両方を見続けなければならない人々の悲しさが伝わってくる。

巷説-巷(ちまた)の夢。
巷の夢を紡ぐことで、
人が少しだけ生きやすくなるための手助けをする-
それが巷説百物語。
又市がなぜ夢を紡ぎ続けていたのか、
その理由が分かる『前巷説百物語』。
1番古い話があえてシリーズのラストになっている、
この順番だからこそ心に沁みるのだという感想です。



『前巷説百物語(さきのこうせつひゃくものがたり)』
弱り目崇り目悲しい目、
出た目の数だけ損をうる、
それが憂き世の倣いごと。
出た目の数だけ金を取り、
損を埋めるが裏の顔-。
明治へ続く巷説が、
ここから始まる百物語-。

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★5つ。

『巷説百物語』シリーズ3作目。
時は江戸から明治へと移る。
新時代の若者たちに不思議な話を語るのは、
一白翁(いっぱくおう)と名乗る老人-
若かりし頃、御行(おんぎょう)又市一味と
行動をともにした山岡百介。

年老いた百介、百介の話の中にだけ現われる又市たち。
「妖怪」が消えていく世の中、それを静かに受け入れる百介。
読んでいるほうも、時代が流れる寂寥感を
受け入れなければなりません。
文明開化の騒ぎの中、日本人は大切なものを
置き忘れて進んでしまったのではないか…
という思いが湧いてきます。

百介は又市たちと離れた後、
あまり幸せではなかったように見えてしまいます。
夢を無くし、ただ生きて…。
だから、ラストは百介にとってきっと良かったのだ、と思えて
切ないけれど温かい。
登場しない又市が
どこかでずっと百介を見守っていてくれたように思えるし、
百介もきっとそう思ったのだろう、と。
前作『続巷説百物語』の
身を切られるような悲しいラストとはちがい、
古きよき時代が行ってしまった寂しさを感じる、
味わい深いラストでした。

6つある短編のうち、最後の2作「五位の光」「風の神」は
京極堂シリーズとの関わりが。
京極夏彦さんの小説はいつも凝っているなあ、という感想。
又市の仕掛けによって人に憑いた「妖怪」を
後の時代に京極堂が落とす…
巷説百物語シリーズと京極堂シリーズ、
両方読んでいるとそのつながりが不思議で、面白い。

巷説百物語シリーズ、残るは1作。
今のところ、この『後巷説百物語』が1番好きですが
又市の過去を描いた『前巷説百物語』も楽しみです。



『後巷説百物語(のちのこうせつひゃくものがたり)』
文明開化の音がする明治10年。
古き世に惹かれる笹村与次郎らは
一白翁と名乗る老爺を訪ねる。
若かりし頃、怪異譚を求め諸国を巡った
老人が語る、怪しく、悲しい昔話。
胸によみがえるは、鈴の音と、
忘れえぬあの声…御行奉為―
第130回直木賞受賞作品。

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★4つ。

現実とは大きく離れた『十二国記』や『屍鬼』とはちがい、
行方不明になった人物を探す本格ミステリー…
という印象はそれほど無くて、
閉鎖的な島という異世界の怖ろしさ、
その印象のほうがずうううっと強い。
罪あるものに罰を与える“邪教”の神、
神の存在が生活に根付いている島民たち、
道具立ても起こる事件も怖ろしくて
ミステリーというよりホラーと呼ぶほうが相応しい気がします。

小野不由美さんの小説に感じる圧倒的な説得力が
『黒祠の島』では少し足りないような感想。
犯罪の実体を暴く謎解き要素とホラーな要素、
どちらも少し物足りなく感じてしまう。
小野不由美さんの小説は
思い切り日常からかけ離れた世界のほうが
むしろ説得力も、怖ろしさ悲しさも際立っていると思います。

それでも、全体の感想は面白かった、というか怖かった。
正体不明の“神”は無条件に怖くて、
こんな島にうっかり行ってしまったら…
と思うと背筋が寒くなる。
そして、人の心の怖ろしさ。
残虐な事件も“島のこと”として
片付けてしまおうとする人々や、
神のために尋常ではない生活を
送らざるを得なかった人の心の歪み。
「罪」と「罰」に対する、答えの出ない矛盾した葛藤…。
その辺りの迫ってくる描写は、
やっぱり小野不由美作品の迫力を感じました。

ラストの続きも気にかかる。
死んでしまった人の縁者にとって、
事件は決して終わっていない。
この後に何が起こるのか、
小説が1作できそうなくらいで
読み終わった後もつい引きずってしまいます。

少々物足りなさはあったけれど、
全体として迫り来る怖ろしさがありました。
でもやっぱり、『十二国記』の続きが読みたいぞー。



『黒祠の島(こくしのしま)』
「そう-ここは黒祠なのですよ」

近代国家が存在を許さなかった
“邪教”が伝わる、夜叉島。
式部剛(しきぶたける)は失踪した
葛木志保(かつらぎしほ)の姿を追い求め、
その地に足を踏み入れた。
惨事の名残を留める廃屋。
神域で磔にされていた女。
闇を統べるのは何者なのか?

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★5つ。

大評判の『1Q84』をまだ買ってすらいないのは、
買ってもどうせもったいなくってなかなか読めないからです。
その代わりと言ってはなんですが
久しぶりに読み返してみた『螢・納屋を焼く・その他の短編』。

どの短編も結末らしい結末はなく、
ある時間からある時間までに
起こったできごとや情景を
すとん、と切り抜いてそのまま書いている、という感じ。

結末のない不思議な短編を読むと
「この後はどうなったんだろう」
「この意味はなんだろう」
と気になることが多いのですが、
『螢・納屋を焼く・その他の短編』は
なぜかそれが無く、ただ余韻に浸るだけ。
この世界はこれで完結なのだ、という印象を受けるのです。
とは言っても『螢』は長編『ノルウェイの森』になるのだけれど、
淡い闇の中を螢がとびたつ、
そのシーンでこの『螢』という物語は完璧に完結している。
村上春樹さんの短編はいつもそんな印象で、
その分よけいに、
その世界から戻ってくることがなかなかできない。

「死は生の対極としてではなく、その一部として存在している。」
『螢』にあるその一節のように、
日常の中に不思議な世界が、
そっと存在しているような気がしてしまう。
部屋にかすかに漂う煙草の残り香のように。
間違いなく日常ではあるのだけれど
(その場所が奇妙な「象工場」であったとしても)
どこかがほんの少しずれている、
そんな空間に連れて行かれる感覚です。

村上春樹さんの小説はいつもそんな感覚で、
読み終わった後も何かと引きずってしまいます。
『1Q84』、楽しみだけどもったいない、
ハマってしまうのが分かっているから読むのが恐い…
いつ読むかまだ迷っています。



『螢・納屋を焼く・その他の短編』
彼女は時々僕の腕に体を寄せた。
でも、それだけだった。
彼女の求めているのは僕の腕ではなく、
誰かの腕だった。
僕の温もりではなく、誰かの温もりだった…。
もう戻っては来ないあの時の、
まなざし、語らい、想い、そして痛み。
リリックな7つの短編。

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