★4つ。

2009年、最後の更新です。
最後の感想も、去年から今年にかけて1番読んだ京極夏彦さんで。
泉鏡花文学賞受賞の『嗤う伊右衛門(わらういえもん)』です。

「四谷怪談」と言えば、怖い怖い幽霊・お岩さんの話。
だけど四谷怪談をベースとした『嗤う伊右衛門』は
いわゆる“怪談話”ではありません。
怖ろしいのは幽霊ではなく、人の心の暗闇。
人が抱える悲しさ、おぞましさ、
薄い幕1枚で隔たれた正気と狂気、
不幸になると分かっていながらどうにもならない人の業。
京極夏彦さんの小説を読んだ時に感じるそれらのものを
『嗤う伊右衛門』では怖ろしく強く感じました。

生真面目で不器用すぎる伊右衛門、
病気で顔が崩れても美しく正しくあり続けるお岩。
愛し合っているのに分かり合えない、
分かり合えないのに愛し合っている2人の姿は
あまりに哀しく、歪んでいて…
それゆえに、身を切られるほど痛々しく美しい。

ほかの登場人物も、それぞれに哀しい。
自分が抱えた暗闇に飲み込まれてしまった人々ばかり。
グロテスクで救いが無く、切なくて痛い。
その姿が胸に刺さるのは、誰の中にも、自分の中にも
彼らが持っていたような暗闇があるからなのでしょう。

『巷説百物語』シリーズの又市が大きな役割を果たしています。
あの又市にこんなことがあったのか、
と思いを馳せるのもまた醍醐味。
京極夏彦さんの小説はいつもながら少しずつリンクしていて、
そこがまたハマってしまう要素です。

あまりにも痛くて、「大好き!」とは言い切れないから☆4つ。
ですがインパクトと心に残る度合では☆5つ。
京極夏彦さんが描く、人であるということの哀しみが
ぎゅっと凝縮されているかのような『嗤う伊右衛門』。
最後に「嗤った」伊右衛門の姿が心に刺さります。



『嗤う伊右衛門(わらういえもん)』
生まれてこのかた笑ったこともない
生真面目な浪人、伊右衛門。
疱瘡を病み顔崩れても
凛として正しさを失わない女、岩。
幽霊よりも怪異よりも、
怖ろしいのは人の心の暗闇-。
極限の愛の物語へと昇華した「四谷怪談」。
第25回泉鏡花文学賞受賞作。

参考:「BOOK」データベース

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い

★4つ。

下町にある小さなフランス料理店の、
無愛想だけどとびきり美味しい料理を作るシェフが、
お客が巻き込まれたちょっとした事件を解決する
近藤史恵さんの『タルト・タタンの夢』。
美味しそうなお料理が続々登場するのがたまりません。

起こる“事件”は事件と言うより、日常のちょっとした謎や悩み。
解決してホッとするできごとと
それに絡む心のこもったお料理のイメージが
見事に重なって、心暖まる読後感。
短編だし、安心してさらっと読める、という感想です。

舞台となるビストロ・パ・マルが素敵です。
フランスの田舎の家庭料理が鍋ごと出てきちゃう、
気取らない小さなビストロ。
フレンチは高くて気取ったイメージがちょっと合ったのですが、
パ・マルの料理は実に美味しそう。
豚肉を使ったカスレ、
大麦とホタテのスープ生姜風味、
特製のヴァン・ショー(=ホットワイン)などなど
味わってみたいものがどっさりあります。

ちょっとだけ残念なのは、
フレンチをほとんど食べたことがなくて
料理の味をなかなか想像できなかったこと。
食欲をそそる雰囲気で描かれていますが
食べたことがあればもっともっと
具体的にイメージできたのに。

自分のお店にパ・マル=悪くない、
なんて名前をつけちゃう、ひねくれ者の三舟シェフが
なんともいい味出してます。
料理人の志村さん、ソムリエの金子さんも個性的。
人となりが1番よく分からなかったのが
ウェイターで語り手の高築くん…
「語り手」という立ち位置だから
客観的に状況を語るのは当然かもしれないけれど、
もうちょっと高築くんについても知りたかったな。

彼らに会いに、そして三舟シェフのフレンチを味わいに
ビストロ・パ・マルを訪れたくなりました。



『タルト・タタンの夢』
カウンター7席、テーブル5つ。
小さなフレンチ・レストラン、ビストロ・パ・マルの
風変わりなシェフが作る料理は、気取らない、
客の心と舌をつかむものばかり。
そんな名シェフは実は名探偵でもありました。
常連の西田さんはなぜ体調をくずしたのか?
フランス人の恋人は
なぜ最低のカスレをつくったのか?
絶品料理の数々と極上のミステリ7編。

参考:「BOOK」データベース /
出版社・著者からの内容紹介


↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い

★2つ。

両親の本棚にあった北杜夫さんの
『楡家の人びと』と『さびしい王様』シリーズ。
子供の頃の自分にとって『楡家の人びと』は難しく、
『さびしい王様』シリーズは読みやすく愉快な話で、
同じ作者であることが不思議でなりませんでした。

『さびしい王様』シリーズはとても好きだった。
滑稽さが寂しさを含んでいる、寂しさの中に滑稽さがある、
ということを『さびしい王様』シリーズで
初めて感じたのかもしれない、
そんなことを思い出して読んでみた『大結婚詐欺師』。

『大結婚詐欺師』もばかばかしくも寂しい話、なんだけど
ばかばかしさのほうが支配しすぎ…という感想です。
あまりにもばかばかしい詐欺の手口とか、
刑事が大結婚詐欺師に逃げられる
これまたばかばかしい顛末とか、ちょっと長過ぎ。

『大結婚詐欺師』は好みではないけれど、
“生きる”ということには
ばかばかしさと寂しさが含まれている、
という切なさは好きです。
『さびしい王様』シリーズは
ばかばかしさと寂しさのバランスが好きだった…
というように記憶しているけれど、
ずいぶんと年月が経っているから自信は無いな。
読むほうの自分が(多分)変わっていると思うので、
同じものをどう感じるかも不明。

『さびしい王様』シリーズをもう1度読んでみたくなりました。
生きることに含まれる寂しさが
どんな形に描かれているのか、
難しく感じた『楡家の人びと』ももう1度読んでみたいです。



『大結婚詐欺師』
ここに登場と相成りますのが、
その名も轟く結婚詐欺師。
対しまするが北沢警察、
敏腕刑事と誉れも高き阿川頓馬。
追いつ追われつの大混戦。
気づけばどうして好敵手。
義理と人情、秤にかけても、
どうにもならない哀しき業よ―。

参考:「BOOK」データベース

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い