★3つ。

素樹文生(もとぎふみお)さんを知ったのは
村上春樹さんの小説をトリビュートする企画の1冊
『回転木馬のデッド・ヒート RMX』で。
企画も内容も興味深い本でした。
素樹文生さんは小説よりも、
アジアへの旅行記や日記エッセイが多い方なのですね。
そんな中、帯に書かれた
「いちご風味の星新一?」という言葉にも惹かれ、
ショートショート作品集『ストロベリーショート』を読了。
 
思った以上に短く、さらりと読めます。
とんとんっと勢い良く、あっさり終わるのが心地いい。
かつての星新一愛読者としては
そこまでのインパクトは無いな…と思いつつ読んでいたのだけれど、
ショートショートに登場する人物たちが実は絡んでいる?
って思った時点で思わず読み返してしまった。
微妙な絡みが上手いなあ。
都会的というのだろうか、
登場人物に対し作者がべたべたとしていない。
どこか渇いた目で、それでも緩やかな愛情を持って
見守っているようだ、という感想。

“ストロベリー”というと、
個人的には女の子っぽいかわいらしいイメージがありますが、
素樹文生さんの『ストロベリーショート』は
それよりかなり大人びたショートショート。
小ぶりで気軽にポンッと口に含むことができるけど、
甘味よりも酸味がちょっと強くて、油断できない。
いちごはいちごでもそんな風に、
一筋縄では行かないイメージです。



『ストロベリーショート』
ガールフレンドを募集中の僕(職業・作家)が
デートすることになったのは、
読者であり、超能力者でもある「うららちゃん」。
ゴルフの時だけ現われるじいちゃんの霊。
甘酸っぱくて、少し不思議な話が29編。
『ダ・ヴィンチ』連載を単行本化。
参考:「MARC」データベース

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い

★5つ。

美味しいものが大好きだ!と今まで公言しておりましたが、
もっとピッタリな言葉がありました。
すなわち、「喰い意地が張っている」。

「食べる事は大好き」だけど
「決して“美食家”と言うものでは無」くて、
美味しい素材を生かしたシンプルな料理が大好きだけど
ジャンクフードも時々無性に食べたくなる。
「旺盛なのは食欲ぐらいなものだ。」
という安野モヨコさんの“食べること”に対する姿勢にまことに共感。

野菜の苦味を美味しく思う度に感じる「大人になった」という実感や、
年齢のためか食べたくても体がついていかない、という
本人にとっては悲しいけれど周りから見たら笑える悩み…。
『くいいじ』に書かれているエピソード、
分かります、分かりますとも!と
読みながら何度もうなずいてしまいました。

ただただ食べるだけの私とちがい、
“食”をお題にこれだけ面白いエッセイを
たくさん書ける安野モヨコさんってすごい。
その喰い意地に、さすがに私もここまでは無いぞ!
(…いや、同じくらい?)と、くすくす笑ってしまったり。
そんな笑える話も多いけど、じわん、と心に沁みる話もあって
色々なイメージで飽きない、という感想。
(ただし、百足の話は要注意。描写が鋭くてかなりキモチワルイ。)

安野モヨコさんは観察眼が鋭いんだな、と思います。
自分をも含めた様々なものに面白みや切なさを見つけ、
それが冷静に的確に文章になっているので
読んでいて時に面白く、時に切なくなる。
1色でシンプルに描かれたイラストもいい感じ。
美味しいものへの愛情が伝わってきます。

喰い意地が張ってるって人にバレるのは
本当はちょっと恥ずかしい。
食にあまり興味が無い人から見たら、
非常にかっこ悪いのではないか?と。

だけど好きなものは好きだから仕方ないんだよなぁ。
体が求める分だけを食べ
スッキリと気持ちよく生きたい気持ちもあるけど、
これからも自分の許容量を超えて食べては苦しがり、
「ギャル曽根になりてえ!」
と本気で呟いてしまうことでしょう。

「より美味しい物を求めてしまうのは仕方の無い事だ。
今日の御飯への感謝を忘れずに、
これからもいろいろ食べて恥をかいて行きたいと思って居る。」

と言う安野モヨコさんと同じように
「ごちそうさま」と「いただきます」の気持ちを忘れずに、
いろいろ食べて楽しんで恥をかいて行きたいなー、
行くしかないなー、と思ってます。



『くいいじ』
「グルメ」でも「食通」でもない、
「喰いしん坊」の食生活。
普通にそこらで買った物を普段通りに料理して、
ちょこっとお酒が飲めれば大満足。
その日食べる事になった物は
抵抗せずに受け入れるけど、
努力して少し美味しくなるのであればする。
旺盛なのは食欲ぐらい…。
どうにも止まらない自らの「喰い意地」を描いた、
安野モヨコ初の食べ物エッセイ集。

参考:「BOOK」データベース / 『くいいじ』まえがき

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い

★3つ。

なんとも不思議なお話でした。
作者のこばやしユカさんは
(少なくともこの本が書かれた'91年頃には)
コピーライターで、雑誌『Hanako』などにエッセイを連載していたらしい、
くらいしかネットで検索してもよく分からない…。
それでよけいに不思議に感じるのかも。

『今度の悪魔とどうつきあう』には、
都会に生きる“変なヒト”たちの
ちょっと奇妙な情景が描かれています。
ストーリーと呼べるほどのストーリーはない。
曖昧な世界をなんとなく楽しんで読めたのは、
こばやしユカさんが選ぶ言葉がキライじゃないからだと思う。
章のタイトルも変わってて、

SCENE8
どこかで、なにかが起こってる。
どこかがどこかへ紛れ込む。
気づかぬわたしは、今日も無邪気に、
自分の夢を生みおとす。
コケコッコ。

なんて、章のタイトルとは思えない文章が並んでます。
ちょっと不思議な感覚の言葉たちが、
奇妙にふわふわした世界を作り出している。
本全体が夢の中の光景のよう、という感想。

「気がついたら、ヒントばかり。
わたしは、ぐるりととりかこまれてる。
…見つからない、見つからない。
ヒントばかりでゴールがない。…」

このお話自体が、ヒントばかりでゴールがないみたい。
日常なんてこんな感じで、
答えなんてないんだよなあ…っていう気がしてきました。

ストーリーを楽しむことも小説の醍醐味だけど、
『今度の悪魔とどうつきあう』では
何も起こらず、答えもない世界に漂う感じを楽しみました。
ふわふわ読むのがちょっと楽しい、ヘンな小説。 



『今度の悪魔とどうつきあう』
ケーキにおのれの心象風景を
デコレーションとしてほどこす諌足よし江。
いつも3Dメガネのおおかみくん。
問題があるとワンピースに閉じこもる
真昼野けいこと、
都会に生きる変なヒトとの交遊録。
  
参考:「MARC」データベース

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い

★4つ。

第21回小説すばる新人賞受賞。
千早茜(ちはやあかね)さんの『魚神(いおがみ)』は、
閉ざされた島を舞台とした物語。
幻想的だけれど分かりづらい文章ではなく、
思ったよりするっと読めました。

「遊郭」という言葉からなんとなく江戸の頃を想像していたけれど
「温暖化」なんて言葉も出てくる。
今の時代、今の日本に近い場所の話なのかもしれない、と
島がすぐそばにあるかのような不思議な気分になりました。

遊郭に生きる遊女たち、
生ぬるい水に潜む魚とそれを取って暮らす人々、
島の住人さえ近づかない裏華町。
島の猥雑さと諦めを含んだ空気が濃厚に感じられます。
退廃的な綺麗さに魅せられる…けれど、
“耽美”という言葉はちがう気がする、という感想です。

語り手である美貌の遊女・白亜が
何も感じずに生きているためか、
様々な事件が起きているのにも関わらず
なぜかひっそりと静かな印象。
水底から地上の世界を見ているような。

どこまで自分でどこまで相手か分からぬほどに
寄り添って育った姉弟、白亜とスケキヨ。
「スケキヨは、他の人と心の造りが違うのよ」
と語る白亜の言葉に、スケキヨの
「魚の目を覗いてはいけないよ。人間とは心の造りが違うのだから」
という言葉が思い出される。

人とは心の造りが違うスケキヨも
何が起きても心を動かされることの無い白亜も、
現実味がほとんど感じられない。
島に語り継がれる魚神(いおがみ)の伝説が
スケキヨと白亜の姉弟に重なり、2人とも魚のように、
地上で騒ぐ人間達を水底からただただ見ているかのよう。

お互い、求めるもの、心を動かされるものはお互いだけで。
その水底はひっそりと静かだけれど、
周りにある水は澄んだ美しいものではなく
生ぬるくて体にねっとりとまとわりつくような感覚がある。
その感覚が本全体を通して感じられ、
読んでいる自分も水底から
島をのぞいているような気分になりました。

事件は色々と起こり、
様々な人々のどろどろとした想いが描かれている。
それなのに、読了後の印象はあくまでも静かなもの。
その奇妙に重い静けさこそが千早茜さんの持ち味なのか。
他の作品も読んでみたいと思いました。



『魚神(いおがみ)』
生ぬるい水に囲まれた孤島。
ここにはかつて、
政府によって造られた一大遊廓があった。
捨て子の姉弟、白亜とスケキヨ。
美貌の姉弟のたましいは、
惹きあい、そして避けあう。
ふたりが再び寄り添うとき、島にも変化が…。
第21回小説すばる新人賞受賞作。

参考:「BOOK」データベース

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い