★3つ。

「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」シリーズ、
講談社ミステリーランドの1冊。
初めは単純明快な探偵小説のようだけど
乙一さんだもの、これで終わりはすまい…
と思ったらやっぱり、という感じ。
ヒーローもの、謎解きものじゃ終わりません。

主人公リンツ君と彼を取り巻く人々の
心理的駆け引きにドキドキさせられました。
子供向けに書かれたお話は
“いい人”と“悪い人”がくっきりと分かれていたりするけれど、
『銃とチョコレート』の登場人物たちは皆グレーゾーンにいる。
“いい人”をいつまでも信じていいとも限らないし、
“悪い人”だからとことん悪くて信じられないとも限らない。
そんな人間たちに現実感があるな、という感想です。

最後には、周囲の誰に対しても少し疑いの気持ち、
この人だって変わってしまうかも、裏切られるかも…
という思いが残り、読後はあまり後味が良くなかったな。

これまで読んだ乙一さんの小説は
最後はもっと暖かみを持ってしめられていたか、
もしくは人間の怖い闇の部分を描ききっているか、だったように思う。

『銃とチョコレート』では
人の暖かみよりも黒い部分の印象のほうがキツく残り、
かと言って人の闇を描ききった訳でもなく、
正直ちょっと中途半端な印象。
やさしい文章で書かれているけれど
絵はとても不気味(緻密でキレイだけど、人間が恐い!)、
そんなアンバランスさからも
中途半端な印象が生れているのかもしれない。

せめて本の世界においては
モヤモヤしつつも暖かい、絶望していてもどこかに希望が残る…
という終わり方のほうが好き。
乙一さんの作品なら、『銃とチョコレート』よりも
もっと好きなものがあるなあ。

けれど、読み応えはすごくあった。
ミステリーランドシリーズ、小野不由美さんの『くらのかみ』も
子供向きとは思えないようなインパクトのあるものでした。
児童書と呼ばれるファンタジーものは基本的に好きで、
でも何でもいいって訳じゃなく、
どんな年代の人が読んでも面白いものが読みたい。
ミステリーランドシリーズには注目したいです。



『銃とチョコレート』
少年リンツの住む国で
富豪の家から金貨や宝石が盗まれる事件が多発。
現場に残されているカードの文字“GODIVA”は
泥棒の名前として国民に定着した。
その怪盗ゴディバに挑戦する
探偵ロイズは子どもたちのヒーロー。
ある日リンツは古びた手書きの地図を見つける。
リンツはその地図が怪盗ゴディバ事件の
鍵をにぎるものだと確信し、
「怪盗の情報に懸賞金!」を出すという
探偵ロイズに知らせるべく手紙を出したが…。

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★3つ。

『今度の悪魔とどうつきあう』のどこか不思議な感じに惹かれ、
また読んでみたこばやしユカさんの本。
『ひとりになると冷蔵庫』、これまたやっぱり不思議です。

「ダイエット」「エンプティ」「エスケイプ」の
3作の短編からなる『ひとりになると冷蔵庫』
「ダイエット」は、最近すっかり太ってしまったナリコちゃんが
学生時代の友人・ショーコちゃんと再会して
さまざまに諭される話。
ショーコちゃん曰く、太ったということは
“煩悩”に負けている、ということ。
彼女が語る様々な“煩悩”についての話は
何となく分かるような、でもよく分からないような、
それで結局どうすればいいの?って
話を聞いているナリコちゃんと同じような気持ちになります。

それでも、なんだかズキンと来るものがある。

「…人は、自分で望んだように動いていくものなの。
どうしても回避したいと思ったことにだけは、
ぜったいにならないものだわ。
だから、それはナリコちゃんにとって
“最低”なものでは決してないと思うのよ」

煩悩に負けることを選び、
自分をプチ地獄に落としているのは自分自身。
よく分からないまま、
とても重ーいことを言われてしまったような気もします。

「エンプティ」はすごーく短いけれど、
なんとなくあまり後味がよくなかったな。
「エスケイプ」は29才、“はんぱなとしごろ”の女性の
日常のひとこまを切り取った、解答も何も無い情景。

『今度の悪魔とどうつきあう』と同じように、
何も起こらず、何の答えもない世界。
「ダイエット」では重たいことを言われたような気もするけれど、
“物語を楽しむ”というより“言葉の流れを楽しむ”、という感想。
こばやしユカさんが選ぶ言葉が合わなければ
まったく好きじゃないかもしれないけれど、
私はわりとキライじゃないです。



『ひとりになると冷蔵庫』
あなたの旅立ち(ダイエット)は、
あなたの冷蔵庫のとびらから始まります-。
「ダイエット」「エンプティ」「エスケイプ」の3編。
こばやしユカが生みだした、
はじめてで不思議なダイエット小説。

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★4つ。

映画の原作として書き下ろされた、群ようこさんの『かもめ食堂』
フィンランドの首都、ヘルシンキにある「かもめ食堂」が舞台です。

群ようこさんのエッセイや小説は
“怒り”が根底にある、という感想だったけれど、
『かもめ食堂』はゆるゆるとした雰囲気。
怒りはあれどユーモアが強く、くすくす笑いながらさらりと読めます。
書かれた時に配役はすでに分かっていたのでしょうか、
サチエ=小林聡美、ミドリ=片桐はいり、
マサコ=もたいまさこのイメージがあまりにもぴったり。
3人の顔が浮かんできて、ちょっとした描写でも笑えてしまいます。

かもめ食堂があるフィンランドって、いい感じの印象があります。
人々は素朴で飾らず、愛想はないけど優しくて、自然が豊か。
でもそれって、フィンランドのどこかにあるというムーミン谷とか
TVでチラっと見たとか、そんなぼんやりしたイメージなんですよね。
『かもめ食堂』に登場する3人の女性も、
フィンランドに対する思いや知識は
私とそれほど変わりないように見えます。
そんな人たちがヘルシンキで暮らすなんてちょっとびっくりだけど、
人生ってそんなこともあるかもなあ、と納得してしまう。 
いかにも小説らしく都合いい箇所もあるけれど、
それもまあいいか、と思える緩い雰囲気。

3人の女性たちはとってもリアルな日本女性。
人生に対する怒りがありつつも
それを突き抜けてしまっているのが、
こののんびりした空気の源ではないかと思う。
1番若いサチエで38歳。
日本での人生に行き詰まりや迷いを感じているけど、
“それはそれ”として毎日を淡々と丁寧に過ごす今の3人。
日本人から見たらのんびりとしているように見えても
同じように悩みや苦しみを抱えていて、
でもやっぱり “それはそれ”として
毎日をゆったり暮らすフィンランドの人たち。
そんな人々の醸し出す空気とフィンランドのイメージが、
さらりと気持ちの良い大人の緩さを作り出している。

日本で行き詰まって外国へ行く。
安易な選択のようにも思えるけれど、
うまくハマれば単なる逃げじゃなく
心地よく生きるためにアリな選択かもしれない、と思えました。
今までの自分の人生だって計画的なものではなくて
わりと行き当たりばったり、だもんね。
だからこの先、フィンランドに行くこともあるかもしれない。
もしもヘルシンキに行ったら、かもめ食堂を探してしまいそう。
ひょんなきっかけで働き出してしまったりして。



『かもめ食堂』
ヘルシンキの街角にある「かもめ食堂」。
日本人女性のサチエが店主をつとめる
その食堂の看板メニューは、
彼女が心をこめて握る「おにぎり」。
けれどお客といえば、日本おたくの青年トンミひとり。
ある日そこへ、訳あり気な日本人女性、
ミドリとマサコがやってきて…。
普通だけどおかしな人々が織り成す、幸福な物語。

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★5つ。

高山なおみさんの『たべるしゃべる』に登場していた、いしいしんじさん。

「…人は、心が動いた時、体の中に実感の固まりができる。
…『ぶらんこ乗り』でいしいさんは、
その固まりにあまりにぴったりな言葉を当てがった。
…子供のころから、私の探していた“ほんとう”が、
本から溢れ出て、寒天みたいに部屋の中を覆っていた。」

『ぶらんこ乗り』を紹介する高山なおみさんのこの感想を読んで
ぜひとも読まないと!という気持ちに。
『ぶらんこ乗り』を紹介するのに、
これこそ“ほんとう”の言葉のように思います。

今はもういない、弟のノートを読む“私”。
幼いけれど特別な存在だった弟の淋しさ、
必死でこの世に伸ばしていた手、凛とした孤独な決意。
ひらがなばかりのノートに、それらのものが溢れている。
「さみしい」「かなしい」なんて直接的な言葉はほとんどなくても。

いつの間にか、姉と同化して弟のノートを読んでいました。
弟の孤独に気づけなかった心の痛み、
その痛みを受け止める姉もまた孤独で。
だけど、弟がノートに書いた物語に登場した
ぶらんこ乗りの夫婦のように、孤独でも、一瞬でも、
また手をつなげると静かに待つ姉。
読んでいる私も姉の気持ちで、静かに弟を待っていました。

現実の世界と向こう側の世界、
どちらの物語でもなく、どちらの物語でもある。
ぶらんこに乗って2つの世界を行き来する弟。
そのノートを通して覗き込んだ向こう側の世界は
静かで、少し怖くて、少し魅力的。
読み終わった後も、向こう側の世界の風景が
自分の中にしっかりと静かに存在している気がしています。

自分自身の芯に近い部分に刺さってくる感覚がありました。
何度も読み返してしまう本になりそうです。



『ぶらんこ乗り』
ぶらんこが上手で、指を鳴らすのが得意な男の子。
声を失い、でも動物と話ができる、つくり話の天才。
もういない、わたしの弟。
―天使みたいだった少年が、
この世につかまろうと必死でのばしていた小さな手。
残された古いノートには、
痛いほどの真実が記されていた。
物語作家いしいしんじの誕生を告げる
奇跡的に愛おしい第一長篇。

参考:「BOOK」データベース

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