★4つ。

『ペンギン・ハイウェイ』の舞台は郊外の住宅地、
主人公はとても利発な小学生…
京都の学生をメインに描かれてきた
これまでの森見登美彦さんの小説とは一味ちがう、かもしれない。
それでも、少年の理屈っぽいところや純粋で一途なところ、
いつものダメダメ大学生に通じる匂いも少々感じる、という感想。
この少年が何事もなく過ごし、自分より賢い人がいる…
なんて挫折したりすると
自意識過剰な「いつもの主人公」が誕生するのかもしれない。

けれど、この少年はきっと
「いつもの主人公」にはならないだろう。
気持ちが折れることがあったとしても、
彼には諦めるわけにはいかない夢があるから。

登場人物がそれぞれに魅力的でした。
少年が憧れるお姉さんは
『夜は短し歩けよ乙女』『四畳半神話大系』に登場する
羽貫さんを少し思わせる、豪快で賢くて優しい人。
少年の家族や友人も素敵で、リアルで、懐かしい。
彼らと過ごす少年の日々は
素朴な驚きに満ちていて、
自分にもこんなことがあったような懐かしさを感じます。

そんな懐かしい日常がある一方で、
ストーリーはかなりSF的な、不思議な展開。
いつも森見登美彦さんが描いている
日常と自然に混ざり合う異世界とはちがった、
本来我々の日常と交わることのない
完璧なる異世界の存在が大きく描かれています。

日常がとても日常らしいからこそ、
その存在が不思議なリアリティを持って迫ってくる。
少年と一緒にその謎を解明したくなった…
けど、同時に謎が解けてしまうのが怖かった。
悲しい出来事が待っているようで。

そして心配していた通り、ラストは本当に切なかった。
泣き言、甘えごとを言わない少年の
本当の想いが溢れるように伝わってきて。

少年はどんな大人になるのだろう。
人はたいてい大人になるに連れ、
子供の頃の切ない気持ちは薄まっていく。
でも、もしかして彼ならこの切なさをずっと忘れずに胸に秘めて、
夢を追い続けるのかもしれない。
彼の幸せのためにはむしろ、夢は夢として追ったとしても
痛みそのものは薄まればいい、と願いたくなり
でも彼自身はそんなことを決して願いはしないだろう、とも思う。

少年のまっすぐな心が爽やかで、でもとても切なくて、
なんだかきゅっとする読後感です。



『ペンギン・ハイウェイ』
小学4年生のぼくが住む郊外の町に
突然ペンギンたちが現れた。
この事件に歯科医院のお姉さんが
関わっていることを知ったぼくは、
その謎を研究することにした。
未知と出会うことの驚きに満ちた長編小説。

参考:「BOOK」データベース


 

★4つ。

人間の「心」と「体」の間にあるものとして「たましい」が存在する、
と考えることは極めて有効である…と語る河合隼雄さん。
たましいを現すものとして「猫」に焦点を当て、
さまざまな物語に登場する猫について
心理療法家の視点から語っています。

心理学についての教養はほとんど、まったく、無いけれど、
河合隼雄さんと村上春樹さんの対談集
「村上春樹、河合隼雄に会いにいく 」を読んで
河合隼雄さんの話は親しみやすくて納得できる…と感じていました。
その河合隼雄さんと猫が結びついたなら
これが読まずにいられましょうか。

人間に「たましい」が存在するのかどうかは分からない。
けれど、「心」と「体」に人間を分けてしまう合理的な考え方は
人を形づくる大切なものを失ってしまう、という説は分かる気がします。

長靴をはいた猫、空飛び猫、100万回生きたねこ、昔話に登場する化け猫…
かわいかったり怖かったり、神さまだったり化け物だったり、
『猫だましい 』に登場する物語の猫たちは実に多様。
それって実は人間が
自分の「たましい」の多面性を鏡のように映しているのだ。
猫に関連づけて「たましい」について語り、
人が生きていく上でのヒントとなるものを見いだそうとしていく
河合隼雄さんの話は
分かりやすく面白く、また頷けるもの、という感想です。

あとがきによると、河合隼雄さんは
決して猫派ではないんですって(犬派でもないそうですが)。
 
 無関心に近いにもかかわらず、猫の方は私を好きらしく、
 猫を飼っている家に行くと、猫の方から寄ってくることが多い。
 P220あとがきより

構われすぎることが嫌いで静かにしておいてくれる人に寄っていく、
という猫の性質が現れているとともに、
河合隼雄さんは心理療法家として悩みを抱えている人間に対しても
近寄りすぎずにそっと見守ってくれていたんじゃないかなあ、
と思えるエピソード。

 たましいは広大無辺である。
 それがどんなものかわかるはずもない。
 従って、何かにその一部の顕現を見ることによって、
 人間は「生きる」という行為の支えを得ようとする。
 …猫は、どういうわけか、人間にとってたましいの顕現となりやすい。
 猫を愛する人は、猫を通じて、
 その背後に存在するたましいにときに想いを至すといいのだろう。
 P217-218

猫を通して、自分の姿を見ることができるかもしれない。
どんなに怖ろしく描いてもそれを受け入れ、「人間」の姿を見せてくれる。
そんな多様性もまた猫の魅力なんだよなあ、
と「猫を愛する人」としては思うのでした。



『猫だましい 』
猫物語を心理療法家の眼で解読すると、
人間の姿がくっきり見えてくる。
長靴をはいた猫、空飛び猫、
日本の昔話、宮沢賢治の童話…
たくさんの「猫たち」が顕われる、
豊穣なる河合隼雄の世界。

参考:「BOOK」データベース


↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い