★4つ。

栗田有起さんの『お縫い子テルミー』
現代の新宿において「流しのお縫い子」として生きる
16歳のテルミーこと照美が主人公。
現実感がまったく無いようで、でも有り得なくもないような、
不思議な力がある物語、という感想です。

テルミーには“すっく”という形容詞が似合う。
彼女は、「自分とは何者であるか」なんて
小難しいことを考えたりしない。
その2本の足ですっくと立つ彼女は
自分がやるべきことを
教わったわけではなく、ただ、知っている。

恋する人が居る場所を
迷うことなく当たり前に見つけてしまうシーンがある。
それはまったく不思議なことではなく、
テルミーにとってはただ分かっただけのこと。
彼女の生き方すべてがそんな感じ。
やるべき時にやるべきことを当たり前に知っているのだ。

テルミーのその凛とした
(そして、自分が凛としているなんて少しも思っていない)
まっすぐな姿は少し近寄りがたく、時に眩しい。
孤独であるがゆえの自由、自由であるがゆえの孤独。
その喜びと哀しみと共に生きようとするテルミーは
清々しくて、痛々しいほどまっすぐで、
でもどこか憧れも感じます。

もう1篇、「ABARE・DAICO」は
ユーモラスで爽やかな印象。
主人公、小学5年生の小松誠二は
テルミーと比べると迷ったり怖がったり、人間らしい。

それでも彼もテルミーと同じように
自分のすべきことを自分で決め、
その行動によって生じた事態や責任を
引き受ける覚悟を持っている。
言葉や行動はまだ幼いけれど
コマもやっぱり孤独で、自由だ。

江國香織さんによる解説、「世界との距離」が
とても納得のいくものでした。

 …栗田有起の小説の登場人物たちは
 「あっさり」もしくは「無頓着」を武器に、
 文字の上をつき進んでいく。”

あっさりと、無頓着に、きっぱりと生きる
栗田有起さんの小説の登場人物たち。
彼らに“共感”はあまりしないけれど、
そのすっくと立った姿を、少し遠くから、
時折り眩しさに目を細めながら
眺めていたい気持ちになるのだ。



『お縫い子テルミー』
恋は自由を奪う…でも、素晴らしい。
依頼主の家に住み込み、服を仕立てる
「流しのお縫い子」として生きる、テルミーこと照美。
生まれ育った島をあとにして
歌舞伎町を目指したのは15歳のとき。
彼女はそこで、女装の歌手・
シナイちゃんに恋をする―。
自由な魂を描いた『お縫い子テルミー』と、
アルバイトをして「ひと夏の経験」を買う小学5年生、
小松君のとぼけた夏休みをつづる
『ABARE・DAICO』、2篇を収録。

参考:「BOOK」データベース
/ 出版社・著者からの内容紹介


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★3つ。

美味しいものがとっても好き、
美味しいものが描かれた本も大好き。
『チーズと塩と豆と』、題名に惹かれました。
シンプルでストレートで良いではないですか。

『チーズと塩と豆と』は昨年BSで放送された
「プレミアム8 愛と胃袋 直木賞作家が食べて書くヨーロッパの田舎」
から生まれたアンソロジー。
角田光代さん、井上荒野さん、森絵都さん、江國香織さんの4人が
ヨーロッパの各地を旅行し現地の食をテーマに短編を執筆、
それを原作としたドラマと、4人の旅を追った
紀行ドキュメンタリーを合わせた番組…だそう。

なじみの無い土地のなじみの無い料理ばかりなのがしっくり来ない、
なんて思っていたけれど
その番組があったからこそ書かれた小説だったのね。
4編とも土地の料理と人々とがしっかり描かれているから、
番組を見て読んだなら、またずしりと来るかもしれないな、
という感想を持ちました。
ただ見ていない分、先入観無しで読むことはできたかも。

角田光代さん「神さまの庭」と
森絵都さん「ブレノワール」が奇しくも、
生まれた地域の古い伝統とそれを守る人々に
反発を覚える主人公、という同じ構図を持つ話。
「神さまの庭」の女性は伝統を大切にしつつ
新しい生き方をしようとしていて、
「ブレノワール」の男性は新しい考えを取り入れつつも
生まれた土地に根付こうとしている。
好みなのは、より清々しさを感じた「神さまの庭」。
悲しみと背中合わせにある希望と、
“食べること”が持つ、人を幸せにする力が感じられる話でした。

井上荒野さん「理由」は救いが感じられなくて、
読んでてちょっとしんどかった。
江國香織さんの「アレンテージョ」は、
読んでいる間なぜか、江國香織さんの話だと忘れていました。
珍しく男性が主人公だからかな。
でも、哀しさを含んだ透明な明るさは江國香織さんらしくもある。

それぞれに味のある話だったけど、
「神さまの庭」に出てくる料理が1番美味しそうだったんだよね…
結局、食い意地が張ってるみたいです。



『チーズと塩と豆と』
頑な心と心が接触する、ヨーロッパの片隅。
角田光代-スペインのバスク地方、
井上荒野-イタリアのピエモンテ州、
森絵都-フランスのブルターニュ地方、
江國香織-ポルトガルのアレンテージョ地方。
4人の作家がそれぞれの土地を旅して描いた
「食と愛」の物語。

参考:「「BOOK」データベース


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