トリップ角田光代

★4つ。

東京近郊の、小さな冴えない町。
角田光代さんの『トリップ』は、
そこに暮らす人々が主人公の連作短編集です。

同じ町に暮らしているとは言っても
それぞれ深いつながりがあるわけではなく、
すれ違ったり見かけたりする程度。
周囲から見ればごく平凡で幸せに見える人たちだけど、
みんながみんな、生活に行き詰まりを感じている…。

角田光代さん、いつもながら
怖ろしくリアルな物語を描くなあ、という感想。

ここではないどこかに行きたい、
今とはちがう人生を送りたい、
でも結局どこに行っても待っているのは“日常”。
登場人物と同じ問題を抱えているわけではないけれど、
小さい町に閉じ込められてしまっているような閉塞感は
落ち込んだ時に感じる気持ちにひどく似ている。
そんな行き詰まり感が全体に漂っていて、
少々辛くなるキケンあり。

だけど、読み終わった時には
少し肩の力が抜けて、楽になる感覚がありました。

重苦しい日常を過ごし続ける登場人物たち。
それでもその日常はほかならぬ自分が選んだものであり、
うんざりすることはあってもそれほど悪いものでも無い。
希望というと大げさで、諦めというと後ろ向き、
2つが入り混じった妙に明るくてサバサバした気分は
自分も味わったことがある気がします。

最後の話「サイガイホテル」の主人公が
かつて自分が住んでいた家で暮らす人を想像して思ったこと、

「どんな人が住んでもきっと同じことだろう。
そこから逃げ出したいと思い、
けれど次の日にはそんなことを思った自分を恥じ、
近くの人間や周囲のものごとをいとしいと実感し、
それでもその数時間後には、
何かに舌打ちをしチクショウメと口のなかでつぶやいている。」

そんなふうにゆらゆらとしながら、
それでいいだろう、と感じられる。

平凡でどこにも行けなくて、それでも前を見て歩いていける、
そんな“日常”が実にリアルに感じられました。




『トリップ』
駆け落ちしそびれた高校生、
クスリにはまる日常を送る主婦、
パッとしない肉屋に嫁いだ主婦―。
何となくそこに暮らし続ける
何者でもない人々。
小さな不幸と小さな幸福を抱きしめて生きる人々を
透明感のある文体で描く連作小説。

参考:「BOOK」データベース

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