★4つ。

第21回小説すばる新人賞受賞。
千早茜(ちはやあかね)さんの『魚神(いおがみ)』は、
閉ざされた島を舞台とした物語。
幻想的だけれど分かりづらい文章ではなく、
思ったよりするっと読めました。

「遊郭」という言葉からなんとなく江戸の頃を想像していたけれど
「温暖化」なんて言葉も出てくる。
今の時代、今の日本に近い場所の話なのかもしれない、と
島がすぐそばにあるかのような不思議な気分になりました。

遊郭に生きる遊女たち、
生ぬるい水に潜む魚とそれを取って暮らす人々、
島の住人さえ近づかない裏華町。
島の猥雑さと諦めを含んだ空気が濃厚に感じられます。
退廃的な綺麗さに魅せられる…けれど、
“耽美”という言葉はちがう気がする、という感想です。

語り手である美貌の遊女・白亜が
何も感じずに生きているためか、
様々な事件が起きているのにも関わらず
なぜかひっそりと静かな印象。
水底から地上の世界を見ているような。

どこまで自分でどこまで相手か分からぬほどに
寄り添って育った姉弟、白亜とスケキヨ。
「スケキヨは、他の人と心の造りが違うのよ」
と語る白亜の言葉に、スケキヨの
「魚の目を覗いてはいけないよ。人間とは心の造りが違うのだから」
という言葉が思い出される。

人とは心の造りが違うスケキヨも
何が起きても心を動かされることの無い白亜も、
現実味がほとんど感じられない。
島に語り継がれる魚神(いおがみ)の伝説が
スケキヨと白亜の姉弟に重なり、2人とも魚のように、
地上で騒ぐ人間達を水底からただただ見ているかのよう。

お互い、求めるもの、心を動かされるものはお互いだけで。
その水底はひっそりと静かだけれど、
周りにある水は澄んだ美しいものではなく
生ぬるくて体にねっとりとまとわりつくような感覚がある。
その感覚が本全体を通して感じられ、
読んでいる自分も水底から
島をのぞいているような気分になりました。

事件は色々と起こり、
様々な人々のどろどろとした想いが描かれている。
それなのに、読了後の印象はあくまでも静かなもの。
その奇妙に重い静けさこそが千早茜さんの持ち味なのか。
他の作品も読んでみたいと思いました。



『魚神(いおがみ)』
生ぬるい水に囲まれた孤島。
ここにはかつて、
政府によって造られた一大遊廓があった。
捨て子の姉弟、白亜とスケキヨ。
美貌の姉弟のたましいは、
惹きあい、そして避けあう。
ふたりが再び寄り添うとき、島にも変化が…。
第21回小説すばる新人賞受賞作。

参考:「BOOK」データベース

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