★4つ。

戦前に生まれ、その生涯のほとんどを“女中”として生きた女性、タキさん。
彼女にとって最も懐かしい慕わしい、
赤い屋根の“小さいおうち”で
美しい奥様と過ごした日々を描いた手記が
中島京子さん『小さいおうち』の中心となっています。

タキさんが描く戦前から開戦直後の東京は、生き生きと輝いている。
歴史を知る私たちは、こんなに呑気だったの?と驚くけれど、
一般庶民はお料理やお出かけ、新しい着物や子供の受験、
なんかに一喜一憂しながら過ごしている。
モダンで華やかな東京とそこで暮らす人々、
そして人々それぞれの秘めた思い、
それこそ『小さいおうち』の大きな魅力。

そんな人々の心と暮らし、
タキさんや奥様の幸せが崩れていく過程が苦しく、怖く、切ない。
戦争とはこういうものか、知らず知らずのうちに怖ろしい状況になって
生活そのものががらりと違ってしまう可能性もあるのか、と。
それは決して、昔のこと、もう起こらないこと、では無いのだよな、という怖ろしさ。

最終章、今までずっとタキさん視点で見てきた物語が
タキさんの甥の息子・健史さんの視点になる。

幸せな若い日々を大切に、そして苦い後悔とともに抱えてきたタキさん。
「思い出すのは後悔ばかり」と泣いていた“おばあちゃん”を
救うことはできなかったのか。
健史さんは後悔の気持ちから、
タキさんの秘密、泣いていた本当の理由を知りたく思ったのだろう。
読んでいる自分も、幸せに暮らす若いタキさんと
泣いているおばあちゃんのギャップが苦しくて
タキさんを助けたかったな…という気持ちになった。
そして、その手記に現れる人々のことも、
幸せだったのだろうか、何を思って何を悩んでいたのだろうか、
戦後はどのように暮らしていたのだろうか…と気にかかる。

ただの好奇心から秘密を知ろうとしたわけではなく、
ましてやその秘密を世間にさらそうとしたわけでもない。
だからこそ、健史さんはタキさんや奥様の秘密を
秘密のままに残しておこうと思ったのだろうし、
その判断、気持ちに共感できる、という感想。
あくまで秘密ではっきり描かれていないからこそ、ずっとずっと考えてしまう。
痛い、というほどではないけれど、どこか心に引っかかる物語でした。







『小さいおうち』
昭和初期、女中奉公にでた少女タキは
赤い屋根のモダンな家と
若く美しい奥様を心から慕う。
だが平穏な日々に
“恋愛事件”の気配が漂いだす一方、
戦争の影もまた刻々と迫りきて―。
晩年のタキが記憶を綴ったノートが
意外な形で現代へと継がれてゆく。
映画化もされた直木賞受賞作。

参考:「BOOK」データベース
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